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中国と日本では「市場が異なる」TikTok Shopの“勝ち筋”とは? UUUMのライブコマース責任者に聞く

中国と日本では「市場が異なる」TikTok Shopの“勝ち筋”とは? UUUMのライブコマース責任者に聞く

※本記事はリアルサウンドに掲載された記事を許可を得て転載したものです。
出典:https://realsound.jp/tech/2025/04/post-1976072.html
文・取材=中村拓海、写真=石川真魚

UUUM株式会社 社長室ユニット ライブコマースグループ グループリーダー小塚雄基氏、株式会社フリークアウト・ホールディングス East Asia (China/Taiwan/South Korea) CEO岡田梨佐氏

 Bytedance社が運営するショートムービープラットフォーム「TikTok」にて、6月30日よりアプリ内で商品の販売から購入が可能となるEC機能「TikTok Shop」が提供開始された。

 TikTok Shopはクリエイターがオススメしたいと思った商品をショッピング機能付きの動画やLIVE配信内に表示し、アプリ内で直接販売できるサービス。スタートしたばかりとあって今後の動向が気になるが、率先してその市場に参入している会社のひとつがUUUMだ。

 今回はUUUM株式会社 社長室ユニット ライブコマースグループ グループリーダーの小塚雄基氏と株式会社フリークアウト・ホールディングス East Asia (China/Taiwan/South Korea) CEOの岡田梨佐氏にインタビューを行い、両者がTikTok Shopに感じる可能性とUUUMならではの”勝ち筋”について語ってもらった。

「日本国内ではライブコマースはなかなか定着していない」

ーーTikTok Shopは既存のECやライブコマースとどのように違うのか、仕組みやユーザー・セラー側のメリットを含めて教えてください。

岡田:従来のECはユーザーが能動的に買い物をするのに対し、TikTok Shopは動画やライブ配信を見て偶然出会った商品を購入する「発見型」という点が一番の違いです。Bytedance社は中国の人口14億人の膨大なデータを駆使し、破格の年収で優秀なエンジニアを採用するなど、TikTokの強さの源泉となるレコメンドアルゴリズムに徹底的に投資しています。だからこそ、TikTokはユーザーがついつい見続けてしまうほど、好みに合わせて最適化されており、TikTok Shopはまさに彼らにしかできないECの新しい形だと感じています。セラーにとっては「発見型」だからこそ、潜在的なニーズを持つ新規ユーザーを取り込める点が最大のメリットです。

ーー岡田さんは以前中国に住んでいたとのことですが、中国のライブコマース市場の変化や重要性についてどのように捉えていますか?

岡田:2018年6月に上海に住み始めた頃には、すでにライブコマースが当たり前のように存在していました。プラットフォームも進化を続け、特に11月11日の「独身の日」や6月18日のセール時には、お祭り騒ぎのように商品が販売されます。ユーザーにとってはそのタイミングで買うのが最も安いという認識があり、私もそこで初めてライブコマースを体験しました。中国のライブコマース市場には「Austin(口紅一哥)」という圧倒的なトップライバーがおり、彼一人の裏には100人規模のチームがいて、機材や広告配信などをリアルタイムで動かしています。先日の中国出張でも「ECの未来」を見てきたと感じています。

ーー小塚さんにお伺いしたいのですが、国内のライブコマース市場については、この数年でどのように変化していると見ていますか?

小塚:日本国内では、ライブコマースはなかなか定着していないのが現状です。いくつかのプレイヤーやプラットフォームが一巡しましたが、事業化やマネタイズにまでは至っていません。ビジネス界隈では動画やSNSを活用したコンテンツ販売は検討されるべき面白さがあるものの、ユーザー側がなかなか付いてこないのが国内市場における大きなポイントだと感じています。

ーー日本でこうしたサービスが定着しない要因について、どのような仮説を立てられているのでしょう?

小塚:いくつかの要素がありますが、ビジネス界隈で言えば、小売流通の仕組み自体が中国などとは全く異なる点が大きいと思います。メーカー側から見ると、既存流通との大規模取引がベースにあり、ライブコマースのような新しいチャネルでは価格調整の幅が自分たちで持てなかったり、均一価格での売価に合わせる必要があったりするなど、業界の古い慣習やリテール上の縛りが非常に大きいです。TikTok Shopがこれをどう打破できるかが、ある意味「2周目の勝負」だと考えています。

ーーTikTok Shopが始まって約1カ月ですが、どういった印象をお持ちですか?

小塚:最初ということもあって、まずは海外のライブコマースで成功体験を持つ企業や、日本市場への本格参入を狙う海外企業が多いという印象で、中国製品や海外製品が多く、美容系のプチプラ商品が7割くらいですね。

ーー実際にUUUMさんがやり取りしている企業さんはどうでしょう?

小塚:弊社が取引するセラーも初動では美容系メーカーからのお問い合わせが多いですが、UUUMの強みとして大手のナショナルクライアント様も多いので、そうした企業様へのアタックも進めています。ただ、日本の大手企業では、SNS担当、マーケティング担当、EC担当など部署が分かれており、社内での意思決定や承認プロセスに時間がかかり、スピード感が出にくいという課題があります。広告宣伝費か販促費かといった予算配分の問題もあり、なかなかトライできない企業が多い印象で……現状はよりコンパクトでPDCAを早く回せるD2Cブランドの方が相性が良いと考えています。

ーーUUUM社として、TikTok Shopについてどのような取り組みをされているのか、改めて教えてください。

小塚:Bytedance社がTikTok Shopに関してリリースしている認定パートナープログラムが大きく3つあります。ひとつは「TSP(TikTok Shop Partner)」。こちらではセラー側の出店サポートや、TikTok上での公式アカウント運用サポートを行います。弊社はEC機能を持たないため、アカウント運用代行をメインにご支援しています。ふたつ目は「CAP(Creator Agency Partner)」。TikTokクリエイター側のマネジメントで、弊社の従来のYouTubeクリエイターマネジメントのノウハウを活かしています。最後は「TAP(TikTok Affiliate Partner)」。セラーとクリエイターをマッチングさせるアフィリエイトプログラムです。

ーーセラーとクリエイター、相互にどのようなアプローチをしていますか?

小塚:TikTok Shopでは、売る人が商材を自由に選べるのが特徴です。クリエイターがショップの商品から能動的にピックアップして紹介できます。しかし、実際には販売利益やアフィリエイト手数料だけでは能動的に動かない場合が多いので、アフィリエイトプログラムとして具体的な案件を提供し、可能であれば固定報酬もセットで活動を後押ししています。

「TikTok Shopはクリエイター先行で盛り上げるのは難しい」

ーー実際に運用してみての手応えと課題はいかがですか?

岡田:まだ市場が立ち上がり始めたばかりで、我々だけでなく、セラー様もクリエイター側に向き合う会社も、全員で市場を作っている状態です。例えば、我々が抱える数万人のクリエイターネットワークのクリエイターでも、現状ではTikTok Shopで数万円しか売れず、そのうちの10%しか収益にならないとなると、その時間を使ってYouTubeを更新した方が収益に繋がる、と優先度がなかなか上がらない状況です。市場が大きくなってからでは遅いため、先行者有利という点で、いかにクリエイターをモチベートし、アシストしていくかが重要です。成功事例をいかに早く作れるかが課題であり、準備を進めているところです。

小塚:YouTubeはクリエイターが先行して成長し、そこに企業案件などが付随していきましたが、TikTok Shopではクリエイター先行は難しいと感じています。セラー先行でSMB(中小企業)から始めるのが現状の流れであり、いかにクリエイターが「面白そう」と思ってもらえるように見せるかが、我々の介入ポイントだと考えています。

ーーこれまでアフィリエイトプログラム等でクリエイターと話してきた上で、興味深い反応はありましたか?

岡田:面白いと思ったのは、現行ルールではサンプル受け取り後14日以内に投稿が必要なのですが、サンプル発送のタイミングもセラー側の都合によるため、クリエイターの活動計画に影響が出ることが課題として挙げられました。 一方で、基本的にクリエイターからはポジティブな反応をもらっています。これまでは案件で指定された商品を紹介することが多かったですが、オープンなプラットフォームで自分が気になる商品や実際に愛用している商品を紹介して収益を得られることに、新しさや面白さを感じているようです。

小塚:クリエイター自身が使っている商品だと熱量が全く異なり、レコメンドのクオリティも格段に上がると感じています。

ーーUUUM様の競合他社との差別化や優位性について教えてください。

小塚:クリエイターマネジメントの競合では、もともとTikTok LIVEを中心にライバーマネジメントや広告ビジネスを行っている会社が多く、マイクロ・ミドルのクリエイターと深く関わっています。彼らは数を囲い込む戦略ですが、弊社はYouTubeクリエイターを多数マネジメントしており、大手事務所との連携もあるため、大きく仕掛けていけるようなクリエイターを発掘する戦略を取っています。市場からの期待は、UUUMが長年培ってきた対クリエイターのマネジメント力にあると考えています。

岡田:フリークアウトグループ全体として、LINEの広告システムやTVerの広告など、メディアやサービス提供者が最良のサービス・コンテンツづくりに専念できるよう、テクノロジーでマネタイズ面を支援してきました。クリエイターマネジメントも同様で、クリエイターが安心して世の中に面白いコンテンツを生み出し続けられるよう、我々が支援するという「縁の下の力持ち」のような役割を担っています。AI時代においてフリークアウトグループならではのテクノロジーと、「人」によるクリエイターマネジメントを組み合わせることで差別化を図っていきたいと考えています。

ーーライブ配信とショート動画、どちらに可能性を感じていますか?

小塚:我々の仮説としては、プラットフォーム側の特性とアーリーフェーズである現状から、ショート動画に注力しています。ファンがいる一定規模のクリエイターであればライブ配信で集客しコンバージョンを狙えますが、現時点では商品の力がまだ強くないこともあり、ショート動画を重ねてコンテンツの賑わいを演出する方が良いと考えています。また、ライブコマースは短期的な売上スパイクになりやすく、事業コントロールがしにくいという側面もあります。キャンペーンや大型セール時には有効ですが、現状はショート動画をベースにしています。

岡田:北米ではライブコマース比率が10%程度というデータもありますが、日本における初動1ヶ月のデータではライブコマースからの売上が約半数という情報もあります。これは、元々外部誘導でライブコマースを行っていた方々がまずTikTok Shopに参入した影響が大きいと考えています。しかし、これまでライブコマース経験のないクリエイターが対応できるようになるには時間がかかり、我々のような会社が育成していく必要があります。トップクリエイターであっても、編集型のエンタメコンテンツ制作と、商品のストーリーを魅力的に伝え購買につなげるライブコマースのスキルは、全く別物です。その他にも、インスタライブがファン向けであるのに対し、TikTokは9割以上がファン以外に見られるというプラットフォーム特性も理解し、適切なコミュニケーションデザインが必要です。

ーー相性が良いと考える業界や業種、クリエイターとは?

岡田:個人的に非常に楽しみにしているのは「推し活系」です。日本のユーザーはVTuberや宝塚、K-POPなどへの投げ銭や課金といった「推し」に対する熱量が非常に高く、配信とファンエコノミーがマッチする可能性が高いと考えています。

小塚:アパレルは既存のライブコマースでも人気があり、価格調整のしやすさや着用感の分かりやすさから相性が良いと言われています。今後機能開放される可能性のある分野としては、医療機器商材(コンタクトレンズなど)、子ども向け商材、無形商材、出版物などが考えられます。特に書籍は、TikTokのコンテンツでも本の紹介が多く、知識欲を掻き立てる点で可能性を秘めています。

岡田:中国ではスターバックスのクーポンやノーブランドの商品も売れており、特に「TikTok映え」する商品が強いと感じています。例えば、水に入れるとタオルになる圧縮タオルや、顔に乗せると泡立つ洗顔料のように、動画として分かりやすく、面白く、低価格で試しやすい商品の相性が良いでしょう。我々は、日本に先行してTikTok Shopが上陸・急成長している東南アジアなどにも拠点があるため、それらの国での見せ方を学び、日本のセラー企業に対して「TikTok ShopならこのSKU(商品)が良い、この見せ方が良い」とコンサルティングできると考えています。

ーーその他、この領域におけるUUUM社の強みだと言える部分はありますか?

小塚:日本はペイメントや個人情報の取り扱いなどにおいて、より厳重な文化と大前提があるため、中国のやり方をそのまま持ち込むことはできません。 しかし、弊社の強みとして、アフィリエイトパートナーとしてクリエイターに商品を紹介してもらう際、社内外のチェック体制をきちんと引き、薬機法などの規制を遵守した上で、安全にクリエイターがトライできる環境を提供しています。

岡田:近年、PR表記をめぐる不備などが原因で炎上した他社事例も散見されます。弊社は質の高いクリエイターアサインとコンテンツ管理で差別化を図っていますし、これは今回のTikTok Shopの取り組みにおいても強く打ち出せる部分だと考えています。

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